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イタリアいなかまち暮らし

イタリアいなかまち暮らし

イタリアの医療

夫の話に行く前に、イタリアの医療はどうなってるのかっていう説明をする。といっても患者が実践的に何をするかって観点で書いてるので、詳しいシステムについては分からない。

自費と保険

イタリアでは「公共の医療機関」と「民間の医療機関」が、わりとはっきり分かれていて、基本的に患者が「保険治療をしたい」と思えば公共の医療機関に、「自費治療をしたい」と思えば民間の医療機関にかかるのだ。ここが日本のように同じ医院で自費で払ったり保険で払ったりするのと大きく違う。

もう一つ大きく違うのが、歯科治療。町の歯医者さんはみんな民間、つまり保険がきかない。
大きな公共病院(つまり保険払い)にも歯科があるが、「下手」「予約待ちが長すぎ」という理由で、また、歩いていける町の歯医者に比べて大病院は不便な郊外にあることもあるせいか、あまり利用されていなかった。歯が痛い→自費で民間歯科医へ。というのは習慣的に普通。

ただし今は事情が改善されてよくなっているし、田舎に住んでると車の利用が多いので郊外でも苦にならない。実際に義父は公共病院で歯の治療をして、全く満足な治療だったらしい。

ちなみに歯科だけでなく、イタリアの公共病院は評判が悪く、ちょっと前までは「野戦病院のように廊下にまで患者があふれ、備品はボロで衛生状態もひどい」ものだったらしい。幸い今は、私の経験した限り病院に行ってもそんな光景はみられないが。

保険に入ってる場合の自己負担額は、収入に応じて、かつ、検査だったら検査内容で変わるらしい。私たちの経験から言うとまず診療所の受診は無料、専門病院での手術、入院費も無料。検査と薬代はだいたい1~3割。
救急診療は保険あるなしにかかわらず無料。

家庭医制度

さて、滞在許可書があれば健康保険に入れる。これはASLの事務所で申請する。黄色の保険証(Tessera di sanit?)を発行してくれる。このときに一人のホームドクター(家庭医)に患者として登録しなければならない。
普通は自分の家に近い公共診療所の医者を選ぶけど、別にどこでもいいみたい。公共診療所で働く医者でさえあれば。

このときにどの医者がいい人だとか事前情報があればベター。しかもASLの事務所に行っていつでも変えることが出来るので心配は要らない。
私たちの場合、近所の診療所に3人の医者がいたのだが、最初適当に選んで、あとで気に入った医者に変えてもらった。そう、診療所の開いてる時間なら自分の登録した医者がいる、とは限らなくて、交代制になってるので「今どうしても医者にかかりたいけど、自分が登録した医者がいない」と言うと他の医者でも受診させてくれるのだ。その方法で全ての医者を受診して決めた。

ホームドクターといっても別にいつも家に来てもらうことはない。もちろん動けない事情があれば来てもらうことも出来るが、普通は患者が診療所に行く。

このホームドクターはどう使うか。
まず病気になったらどんな病気でも、眼科でも婦人科でも「保険で払いたい」と思う限りはこの登録した診療所に行く。それで症状を話して、ホームドクターが「病院のこの科に行くべき」と決める。
多くの軽い病気の場合はホームドクターが何でも診断して治療する。それで彼は「どれそれの薬」とか「なにかにの検査」を「処方箋」にしてくれる。このとき専門医が必要だと判断したら「何々科の受診」というのも処方箋みたいにくれるのだ。つまり全部処方箋方式なのだ。

この公共の専門科は全て郊外の大公共病院にあって、町なかに開業しているのは民間の専門医だ。保険治療をする限り自分で専門医に直接行くことは出来ない。公共の診療所が全ての科への入り口なのだ。

何科に行ったらいいのか一般人だと迷うところを、医者が専門知識を駆使して決めてくれるわけだ。一般人なら見逃す危険を多く医者は知っている。(←多分。過信はダメ)たとえば皮膚に現れる症状のいくつかは肝臓が悪いことの表れだったり、目の奥が痛いのが甲状腺の異常だったり。でも病気っていっぱいあるからあんまりレアな難病の症状を全部知っている医者もそういないだろうけど。
その他いい面はいわゆる「かかりつけ」の医者に見てもらうことになるところ。一人の患者の歯科以外のすべての病歴が一箇所で管理されているから、総合的に見てもらえて安心といえば安心かも。

日本の医者のいやなところは症状を話し終わったらさっさと診断して処方してすぐ帰らされる。待ち時間が長いうえに次の患者が待ってるからとにかくせかされる。
イタリアの医者も待ち時間が長いが、いったん医者にあうところまでこぎつけたら、とことんまで細かく症状を聞いてくれて、ついでに「最近肩が痛くて」とか別のところも診断してもらえるし、またまたついでに「妻がこういう症状なんだけど診せたほうがいいか」とか身内の相談もでき、日常の健康相談にも乗ってもらえ、はては世間話までして、まさに総合健康コンサルタント以上の存在だ。その代わりに一人一人の時間が気が遠くなるほど長いので、あまり人数がいなくてもかなり待たされる。

役割分担

さて診療所では薬も出せないし検査器具もほとんどないのも日本と大きく違うところ。診療所には医者とデスクの診察室と、事務員(看護婦?)とPCの予約窓口しかない。予約窓口もなく医者がぽつねんといるだけの小さい診療所もある。

薬の処方箋ならそのまま診療所を出て薬屋に行き薬をもらう。検査なら診療所の窓口で(その日PCが壊れてない限り)検査施設の予約をしてもらう。専門医の受診もここで予約してもらう。

コレがクセモノで、普通は検査の予約日は何週間も、数ヶ月も先になる。病状によって優先度が変わるらしいが、我々の場合2週間より早くなったことはない。
検査をすれば結果も待たなければならない。音波検査とかレントゲン写真みたいにすぐ結果が出るものは数十分だが、血液検査とか尿検査みたいな分析検査だと2,3日かかるので、指定された日時にとりに行く。
検査結果には検査医のコメントが「医者に見せる必要あり」とか「特に異常なし」と書かれている。これを持って自分の登録した診療所の担当医のところに行き、見せる。
それで異常無しなら他の検査を「処方」して、繰り返し。異常ありならその病気にあった薬が出て、やっと治療が始まる。
その時点で自然治癒してなければ、の話だけど(笑)

(私は検査に行く時点でもう治ってる場合が多いので、「異常なし」なら担当医のとこにはもどらない。面倒だから。でも一応は見せておいた方がいいみたい。担当医なら「どういう症状がある」というのを念頭において、検査医より気をつけて検査結果を見ると思うから。「異常はないけど何々の数値がやや高い」とか、この数値が高いって何を意味してるのか、とか詳しく教えてもらえるから。)

つまり、医者にかかるというのは日本だと、

症状が出て→病院に行って→医者に会って→検査して→処方箋が出て→薬局で薬を買う。

これらの手順は、最近では薬局が別な場合も多いが、ほぼ全て一つの病院か診療所で済む。まあ待ち時間のためほぼ1日はかかるものの、1日ですむ。

それがイタリアでは、

症状が出る→診療所に行く→医者に会う→検査の処方箋をもらう→検査の予約をする(窓口のない診療所だったら、他の場所にある予約施設まで行かなければならない)→家に帰る→予約日に検査施設で検査する→家に帰る→検査結果が出る日に取りに行く→診療所→医者に見せる→処方箋が出る→薬局

・・・と、すごく無駄な動きが多いと言うか・・・行政側にすれば検査を一箇所にまとめるから逆に無駄が省けるんだろうけど。優先順位は症状を診て医者の判断で決められる。

ちなみに上記の説明は一般医だけですむ場合。

専門医が必要だと判断されれば、この手順に

→専門科での受診が必要、と「処方」してもらう→専門科の予約→受診

という手順がさらに加わり、ややこしく、日にちもさらにかかる。

まあイタリアで医者に通うというのは予約、予約、予約に予約待ち×3ってこと。

症状から「優先しなくていい」と判断されて、何ヶ月も検査待ちして、実は進行の早い病気で検査をするころにはもう回復不能・・・とかあったら怖いなー、といつも思う。

しかし症状のはっきりした単純な病気の場合は、患者の話を聞いただけで家庭医の判断で検査結果を待たずに薬を出してくれる。(インフルエンザとか、膀胱炎とか。「おしっこがしみる」と医者に行ったら日本では尿検査したけど、イタリアでは検査はせずすぐに抗生物質を処方してくれた。)

これが手術が必要な病気なら、検査待ちと手術の予約待ちの間に悪化するのは避けられないだろう。手術の予約待ちは検査に輪をかけて長く、1年にわたることもある。

だからこそ多くのイタリア人が自費で大金を払って民間の医療機関にかかっているのだ。
そうそう、余分にお金を払うと予約を早くしてもらえるという新しい制度もあるので、これは結構使える。(賄賂じゃないよ!!)

もちろん症状が激しい緊急の場合は、少々軽いと思っても躊躇せず病院の救急窓口に行ったほうがいい。ここなら直接専門医にかかれるし、検査もすぐにしてもらえる。命にかからなくとも、緊急か、緊急じゃないか日本なら2の足を踏むような症状でも、イタリアでは迷わず救急窓口に行くことをすすめる。タダだし。

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